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2つの「みせる」鉄腕からのメッセージ

平成14年11月24日、島原キャンプ記念碑前に集合する西鉄ライオンズOB会のメンバー。記念碑右横が稲尾氏
平成14年11月24日、島原キャンプ記念碑前に集合する西鉄ライオンズOB会のメンバー。記念碑右横が稲尾氏
◇いよいよプロ野球が開幕

 いよいよプロ野球が開幕する。24日にはパ・リーグ、そして30日にはセ・リーグのし烈なペナントレースが幕を切る。野球ファンのみならず、稲尾にとっても1年でもっとも楽しみな瞬間である。だが、今のプロ野球界にはさまざまな問題が山積している。一流選手のメジャー流出など今後の球界の在り方が問われている中で、西武の裏金問題も明らかになるなど、厳しい1年になりそうだ。「鉄腕」稲尾のプロ人生50年を記念して栄光と挫折の歴史を振り返ってきたが、最終章は稲尾から現役選手たち、そして球界へのメッセージとしたい。

 稲尾 言い尽くされているかもしれないが、プロ野球というのはファンあってのプロ野球ということを、選手たちにはいま1度しっかりと考えてもらいたいんだな。これはプロ野球というものがスタートしたときから変わることのないものなんだけど、それを今、選手たちがどう受け止めているだろうか、と思ってしまうんだ。時代は変わったけど、ファンあってのプロ野球というのは不変だから。そのことを選手自身がどれだけ自覚できるかなんだ。

 プロに入ったら一線で活躍したい、そのためには努力しなければならない。こんなことは当たり前なんだ。プロ野球には「見せる」と「魅せる」という2つの「みせる」がある。プロとしてのプレーを「見せ」て、ファンの人たちを「魅せる」(魅了する)わけだ。この2つを実現するためには死に物狂いで努力しなければならない。成長しない選手は「自分」だけしか見ていない証拠なんだな。「自分の技術」「自分の体力」だけに視点がいっている。それはアマチュアの世界であって、プロは同時にどれだけファンを魅了できるか、ということが大切なんだ。自分の技術向上だけを考える選手はまだまだプロとしては初期の段階。さっき言った「見せる」と「魅せる」は相乗効果にもなっているんだ。ファンに「見せる」プレーができたら、ファンを「魅せ」られる。じゃあ、次はもっとファンを魅了したい-。ということは「見せる」プレーも、もっと向上するし、ファンの満足度ももっと上がる。これが好転のサイクルとなっていけば超一流選手の道が開けるし、ファンに対してもこれ以上ない喜びを与えられる。だから私は「ファンあってのプロ野球」と言っているわけだ。

 私事で申し訳ないが、現役時代は酷使されたんじゃないかとかよく言われる。でも、それはまったく違う。ブルペンに向かって歩いて行っているときにスタンドのファンから「稲尾頑張れ!」と声が飛ぶ。あの声援は私をゾクゾクさせたし、気持ちが乗って行った。確かに肩が張っているときだってある。でも、ファンに乗せられたものだ。正直言って、私が活躍できたのはファンのおかげ。ファンの声援に成長させてもらったと今でも思っている。

 甲子園にも出ていない別府の無名の高校生が「鉄腕」と言われるまでになれたのはお世辞でも何でもなく、ファンがいたからこそ。ファンの声援がグラウンドの「父親」となって私を育ててくれたと、感謝している。

 現役の選手たちにしっかりと胸に刻み込んでもらいたい「鉄腕」の言葉である。(終わり)【佐竹英治】

 ◆稲尾和久(いなお・かずひさ)1937年(昭12)6月10日、大分・別府市生まれ。別府緑ケ丘(現芸術緑丘)から56年西鉄に入団。56年に21勝(6敗)、防御率1・06で新人王。56年から3年連続の日本一に貢献。61年には42勝(14敗)。新人王、MVP2回、最多勝4回、最優秀防御率5回。69年現役引退。通算成績は276勝137敗、防御率1・98。180センチ、94キロ。右投げ右打ち、血液型B。



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