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きつかったオフの酒

1年目、21勝を挙げた稲尾は新人王と最優秀防御率に輝き、日本シリーズでも3勝を挙げる大活躍を見せた。左から豊田、稲尾、中西、河野
1年目、21勝を挙げた稲尾は新人王と最優秀防御率に輝き、日本シリーズでも3勝を挙げる大活躍を見せた。左から豊田、稲尾、中西、河野
◇連日連夜の宴

 プロ野球選手にとって、待ち遠しいのは何といってもオフシーズンである。1年間、戦い続けてきた体と心をしっかりと休められる安息の時間となるからだ。今では、オフの間もしっかりスポーツジムに通うなど、シーズン中と変わることなく練習を継続する選手たちも多くなってきたが、あの時代にバラ色の生活? を捨てて、ストイックに体をいじめ抜く人間は少なかった。いや、いなかったと言ってもいいのではないだろうか。ましてや西鉄ライオンズは王者巨人を倒して初の日本チャンピオンに輝いたのである。苦しいシーズンが終わった解放感と、日本一になった達成感。野武士たちもだが、博多っ子も「祝勝」に沸いたオフだった。

◇酒豪のDNA

 博多の町は今でも「まあ、一杯やらんね?」が、あいさつ代わりのような土地柄である。シーズンでは21勝を挙げ、新人王&最優秀防御率に輝き、日本シリーズでは3勝を挙げ、胴上げ投手ともなり大車輪の活躍を見せた稲尾である。19歳の若者とはいえ、連日のように宴席に引っ張りだことなるのは当然だった。今でこそ「酒が弱くなった」と自認する稲尾だが、それでも芋焼酎のロックグラスは氷が溶け切ることはない。一斗樽(だる)を空けたというほどの酒豪だった父久作、飲み助からは逃れられないと亭主に負けじとお酒の味を覚えた母カメノ。そんな両親の強烈なDNAを受け継いだ稲尾である。宴席では毎晩、一升瓶がゴロゴロと転がる毎日だった。

 「シーズンが終わったら、毎晩のようにいろんなところからご招待がかかるわけだ。え、こんなにお誘いがあるのかと、驚きながらも出て行く。酒が嫌いじゃないから、いろいろと付き合ってしまう。シーズン中よりもきついくらいだった。本当に1年目のオフは飲み疲れてしまった」。

 連日連夜の宴に憔悴(しょうすい)しきっていた稲尾だったが、宴席をうまくかわすことを思いついた。ゴルフである。当時の木村重吉オーナーからオフのある日、自宅に食事に招かれ、翌日のラウンドを誘われた。

 「オーナーから明日、ゴルフに行くから君もしなさいと言われた。まったくゴルフはやったことないけど、オーナーの誘いだし、しょうがなく行ったよ」。

 クラブすら握ったことがなかった。ショットのたびに右へ左へフェアウエーを全力で走った。

 「あ、これはいいトレーニングになる」-。

 その後は宴席の誘いはゴルフに変えてもらうことにした。

 「ゴルフだと、その後の飲み会といってもみんな疲れてて、そんなには飲まない。ゴルフ場ではずっと打った球まで全力で走っていた。宴会は短くなるし、ちょっとしたトレーニングもなった。おれにとっては一石二鳥だった」。

 ちなみに「鉄腕」の初ラウンドはオーナーから借りたクラブで65・55の120だった。【佐竹英治】



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